新型自由雲台SL-60ZSC Type-S

丸十年の歳月をかけて完成した、
梅本製作所の新型自由雲台Type−Sシリーズ(特許取得しました)には、
世界初のショックアブソーバー(緩衝器/かんしょうき)を内蔵しています。


新型自由雲台Type−Sシリーズは、
ぱっと見てわかるように、
四角いカメラ台のSL−ZSC Type-Sシリーズではカメラネジ締め付けホイールを、
クイックシュー直結型SL-AZD Type−Sシリーズではクイックシュー直結台を、
白色(アルミ素材色)としました。
全体は黒色です。


新型自由雲台Type−Sシリーズはショックアブソーバーを組み込んだ自由雲台ですから、
旧 四角いカメラ台のSL−ZSCシリーズは、
新→四角いカメラ台の SL-ZSC Type-Sシリーズになり、
旧 クイックシュー直結専用自由雲台SL-AZDシリーズは、
新→クイックシュー直結専用自由雲台 SL-AZD Type−Sシリーズに、
それぞれなります。

自由雲台の大きさは従来通り、
・SL−60(大サイズ)
・SL−50(中サイズ)
・SL−40(小サイズ)
です。

また、締め付けつまみは従来通り、
丸形ノブ と T形レバー をお選び頂けます。


自由雲台全体の解説は、SL−ZSCシリーズのページをご覧ください。


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それでは、ショックアブソーバーの仕組みを解説します。


ある方にこの説明をしたところ、
「そんな狭いところで、こんなにドラマチックなことが起っているんですね」と、
この説明の輪郭をうまく表した、すてきな感想を頂戴しました。
このような感覚は、とてもすばらしいとおもいます。


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・ショックアブソーバーの位置


図1 Type−S

新型自由雲台Type−Sシリーズのショックアブソーバーは、
ボールの上部を包む上ボール受けのスロット部(カメラ台を90度倒すときに入れる切り込み)から、
少しですが見ることができます。
ショックアブソーバーは真鍮(しんちゅう)製なので、五円玉の色をしています。


図2 従来製品

ボールと、上ボール受けのスロット部との間からは、
ブレーキ機構の最上部である下ボール受けの一部が見えるだけです。


図3 Type−S

ショックアブソーバーは短い円筒形をしています。
上部のすり鉢状になった斜めの部分でボール外周面と接します。
下端は自由雲台本体と接します。

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・ショックアブソーバーの動作


従来製品を先に説明しましょう。
図4 従来製品
(上ボール受けの表示を半透明にしています)

ボールは下ボール受けに乗っています。


図5 従来製品
(上ボール受けの図示を省略しています)

つまみを締めると下ボール受けが上昇します。
ボールは上昇してきた下ボール受けと上ボール受けに挟まれて固定されます。


それでは、新型自由雲台Type−Sシリーズのショックアブソーバーの説明です。
図6 Type−S
(上ボール受けの表示を半透明にしています)

ショックアブソーバーを自由雲台に組み込んだところです。
円筒形をしたショックアブソーバーの、
中央の穴には下ボール受けを同心円状に収容しています。
ショックアブソーバーは下端を本体と接し、
上部のすり鉢状の部分でボール外周面と接しています。


図7 Type−S
(上ボール受けの図示を省略しています)

ショックアブソーバーは上下動しません。
そのため、寸法変化等がおこらず長期に亘って効果が持続します。
ボールにはグリースが塗ってあります。

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・粘性抵抗力1


ショックアブソーバーと、ボールに塗ったグリースによって、
ボールに粘性抵抗力(ねんせいていこうりょく/グリースの粘りによる抵抗)を与えます。


粘性抵抗力は速度に比例します。
ですから、カメラ等が風から受ける力や手の振動力などでボールが動く速度が速い場合には、
粘性抵抗力はより強くなります。
また、構図を変更するための操作のようなボール外周面の動く速度が比較的遅い場合には、
粘性抵抗力はより弱くなります。
したがって撮影意図に無関係な不随意な動きは十分抑制され、また構図決定の邪魔になりません。

(いわゆるトルクと呼ばれるブレーキからの摩擦抵抗力ではありません。/なお、摩擦抵抗力は速度によらず一定です)

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・ショックアブソーバーの効果1


自由雲台 Type−Sシリーズを、従来の梅本製作所製自由雲台と比べると、
 ・カメラのピクピクした動きを抑えます
 ・特に、三脚座のあるレンズを使った場合には、
レンズの筒先が ∞ の字を描くような動きを、とてもうまく抑えることができます。
これは、ボールが動く速度が速いため、粘性抵抗力が大きく働くからです。

一方

 ・特に、三脚座の無いレンズの付いたカメラでおこる、
レンズの重みでカメラ前側が下がる動きは抑えることができません。
これは、ボールが動く速度が遅いため、粘性抵抗力が小さくなるからです。
ですから、ブレーキを緩めたときには、従来品同様カメラをしっかりと支えてください。


ようするに、従来の梅本製作所製自由雲台の自在な操作感はそのままで、
さらに、自由雲台を使うのがうまくなったような感じがするとおもいます。


また、ショックアブソーバーをよく機能させるために、
各部の寸法組立精度を飛躍的に向上させています。
ですから、
 ・ボールを上で包む上ボール受けを回したとき
 ・基台を三脚に残し、つまみのある本体を回したとき
にも、とてもなめらかな動きをします。
自由雲台を使うのが楽しくなることと存じます。


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・グリースについて



ショックアブソーバーは、
ボールに塗ったグリースと共同して作用します。
ですから、
ボール表面には定期的に指定グリースを塗ってください。
指定グリース
「梅本製作所 自由雲台専用グリース(白)+(赤)」(別売)
(お求めはこちら


指定グリースを塗る間隔は使用頻度によって異なりますが、
 ・ボール表面がホコリなどで汚れたときにはその都度
 ・定期的にはボール表面が乾いた感じになる前に
行ってください。

指定グリースの塗り方の詳細は、
梅本製作所製自由雲台のお手入れ方法
をご覧ください。

指定グリースを塗らないと、ショックアブソーバーの作用をしないだけでなく、
ボールやショックアブソーバーを痛める原因になります。


粘性抵抗力は温度が上がると小さくなります。
ですから、夏場の炎天下などでは粘性抵抗力が小さくなります。
粘性抵抗力は増加側には調整できません。


また、粘性抵抗力は温度が下がると大きくなります。
おおむね0℃を下回る温度になる寒冷地では、粘性抵抗力が大きくなります。

新型自由雲台 Type−Sシリーズをお使いで
おおむね0℃を下回る寒冷地で使うとき、
グリース(白)の粘性抵抗力が大きすぎると感じる場合には、
グリースの本塗りのときに、
新製品の 梅本製作所の高精度自由雲台専用グリース(赤)を使います。

グリース(白)と、グリース(赤)は混ざっても大丈夫です。
適当に混ぜて、粘性抵抗力を変化させることもできます。
 ・グリース(白)が多いと粘性抵抗力は大きく、
 ・グリース(赤)が多いと粘性抵抗力は小さくなります。
なかなか、おもしろいです。


ショックアブソーバーで発生する粘性抵抗力は、
自由雲台が大きいほど大きくなります。
ですから、
SL-60シリーズ(大サイズ)>SL-50シリーズ(中サイズ)>SL-40シリーズ(小サイズ)
の順です。
粘性抵抗力は増加側には調整できません。

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・ショックアブソーバーの更に詳細な説明


ここからは、ショックアブソーバー機構の更に詳細な説明をします。
少々、むずかしいかもしれません。


図8 従来製品
少し上から見た部分断面図

つまみの操作によってブレーキ機構である下ボール受けが上下し、ボールにブレーキをかけます。
従来製品では、ブレーキをかけていないときもブレーキをかけたときも、
ボールは下ボール受けで支えられていました。
ですから、カメラ等の荷重は
ブレーキをかけていないときもブレーキをかけたときも、
カメラ等→カメラ台→ボール→下ボール受け→ブレーキ機構→本体 と伝達されていました。


図9 Type−S
少し上から見た部分断面図

ショックアブソーバーは本体の上に置かれています。
ショックアブソーバーは上部のすり鉢状の部分でボールと接します。
ですから、ショックアブソーバーはボールと本体によっていわば「挟まれた」ように見えます。
(挟み込む力は与えていません)


新型自由雲台Type−Sシリーズでは、
ブレーキ機構である下ボール受けは、通常ボール外周面からわずかに下がった位置にあります。
このときは、ショックアブソーバーがボールを支えています。
つまみを操作すると、ブレーキ機構が働き下ボール受けが上昇してボールを固定します。

ブレーキをかけていないときのカメラ等の荷重は、
カメラ等→カメラ台→ボール→ショックアブソーバー→本体 と伝達されます。

ブレーキをかけたときのカメラ等の荷重は、従来製品と同様に
カメラ等→カメラ台→ボール→下ボール受け→ブレーキ機構→本体 と伝達されます。

ですから、新型自由雲台Type−Sシリーズはカメラ等の荷重の通り道が二つあって、
ブレーキのON,OFFによって自動的に切り替わります。
ブレーキ動作時は、ショックアブソーバーからボール外周面が離れるので、粘性抵抗力は発生しません。


ボール外周面にはグリースが塗ってあります。

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・粘性抵抗力2


ここからは、特許明細書及び特許図面をもとに説明します。


この発明の主要な課題は、
ボールに対してボール外周面に塗布した油脂などの粘性流体からの粘性抵抗力を与えて、
撮影意図に無関係な不随意な動きだけを抑制し、
また構図決定の邪魔にならず、更にカメラブレも効果的に抑制する自由雲台を提供することです。

そして、発明者(梅本)が行った実験的研究により、
グリースなどの粘性流体がボール外周面に与える粘性抵抗力について、従来認識されていない現象を見いだしました。
それにより、従来の自由雲台で粘性抵抗力を得られなかった理由もわかりました。


以下この現象を、特許図面 図3、図4を参照しつつ説明します。

特許図面 図3

ボールとショックアブソーバーの正面視右側の部分断面です。
上記図9と同じ部分です。

特許図面 図4

ボール外周面とショックアブソーバー当接部との極狭い隙間であるクリアランスの要部を示した
部分拡大縦断面模式図です。
ショックアブソーバー当接部を水平として表してあります。
(実際には、発生油圧は運動方向によって偏りが生じますが、
発明の構成とは関係が無いので本図では対称に表しています)


ボールの動きつまりボール外周面の移動によって、
グリースなどの粘性流体がボール外周面とショックアブソーバー当接部との狭いクリアランスに、
その粘性によって引き込まれます。
グリースなどの粘性流体はクリアランスに引き込まれることにより、局部的に高い油圧を発生します。
グリースなどの粘性流体の油圧が上昇すると、その粘度が局部的に著しく上昇します。

(平軸受で荷重を支えられるのはこのためです。軸と軸受間の油膜で荷重を支える訳です)

粘度が上昇したグリースなどの粘性流体は、
ボール外周面に、移動方向と逆向きの高い粘性抵抗力を与えます。
その結果、この高い粘性抵抗力がボールの動きを抑制します。

さて、粘性抵抗力は油圧によって上昇します。
油圧はクリアランスの距離が小さい程大きくなります。
ここまでは従来知られていた現象でした。

更に高い粘性抵抗力を得ようとすると、油圧が更に上昇します。
このとき、従来認識されていない以下の現象を見いだしました。


ショックアブソーバー当接部は、
その油圧によってボール外周面とは逆の方向すなわちショックアブソーバーの内部方向に変位(弾性変形)します。
すると、ショックアブソーバー当接部とボール外周面とのクリアランスは拡大します。
クリアランスが拡大すると油圧が低下します。
油圧が低下すると粘性抵抗力も低下することになります。

これは、転がり軸受の中の転がり接触面でおこる弾性流体潤滑(EHL)理論に似ています。
転がり軸受の場合は、転動体が油脂を踏みつけるようにして転動体の弾性変形と油圧が発生します。

従来の自由雲台では、
いわゆる静的に、ボール外周面とブレーキ機構である下ボール受けとの距離すなわちクリアランスを、
特に初期なじみや経年変化による部品の摩耗などの影響で適切に保つことが出来なかったとわかりました。

又は、いわゆる動的に、下ボール受けがの材質が例えばプラスチック類やゴムなどの柔い物であるため、
油圧に対抗できずクリアランスが拡大していました。

ですから、従来の自由雲台では、上記の静的な理由,動的な理由,またはその両方の理由によって、
ボール外周面に塗布したグリースなどの粘性抵抗力を十分に得ることができませんでした。

すると、静的にはボール外周面とショックアブソーバー当接部とのクリアランスを、
長期間に亘り適切に保つことが出来、
動的にはボール外周面とショックアブソーバー当接部とのクリアランスを、
油圧に対抗して適切に維持することが出来るなら、
粘性抵抗力が十分に発揮されると考えました。


従来は、このショックアブソーバーに相当する部材は摩擦抵抗が大きいことが必須と考えられており、
そのためゴムやプラスチック類などの弾性体が使用されるのが常で、
ショックアブソーバーとして硬い材質を使用することは常識外でした。
硬い材質のものは摩擦係数が小さいため、摩擦抵抗でボールの動きを抑制することができず、
意味が無いと考えられていたからです。

本発明者は、従来の常識に反し、
高い剛性を持つ=すなわち硬いショックアブソーバーでボールの外周面を支持することを試み、
その結果、硬いショックアブソーバーでもボールの動きを十分に抑制できること、
および硬いショックアブソーバーは経時劣化や摩耗やへたりが少なく回転抑制力が長期にわたって安定することを見いだし、
本発明の主要な構成要件とするに至ったものです。

これがわかるのに丸七年かかりました。
その後、製品化に丸三年かかりました。
つまり、発明に七年、実用化に三年、都合十年間ですね。
飽きずによくやったとおもいます。

そして、
 ・ショックアブソーバーは上下動しない
(静的に組立時の精度維持のため。
もし、ここが上下動すると部品間にナジミや摩耗が発生しクリアランスが増大する/ 静的な理由の解消)
 ・ショックアブソーバーは剛性の高い真鍮製とする
(動的にクリアランスを維持できるように大きなヤング率を得るため。
プラスチック類やゴムでは不可/動的な理由の解消)
を、本発明の構成としました。


試しに真鍮製とポリアミド製のショックアブソーバーを二種製作し実験してみました。
どちらも、ショックアブソーバーは本体上に置く、このType−Sシリーズと同じ構成です。
結果、
真鍮製のショックアブソーバーは粘性抵抗力を十分に発生しましたが、
ポリアミド製のショックアブソーバーは粘性抵抗力をほとんど発生しませんでした。
ここから過去の数々の実験の結果を見直すと、
粘性抵抗力の大小はショックアブソーバーのヤング率で説明できるとわかりました。

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・ショックアブソーバーの効果2


粘性抵抗力は速度に比例します。
したがって、カメラ等が風から受ける力や手の振動力などの影響で、
ボール外周面が動く速度が比較的速い場合には、粘性抵抗力はより強くなります。
また構図を変更するための操作のようなボール外周面の動く速度が比較的遅い場合には、
粘性抵抗力はより弱なります。
したがって撮影意図に無関係な不随意な動きは十分抑制され、また構図決定の邪魔になりません。


ボールはブレーキ操作をしない時にはショックアブソーバーに乗っています。
ショックアブソーバーは剛性の高い真鍮製です。
また、ショックアブソーバーは金属製の本体に直接乗っています。
ですから、ボールを固定しないで撮影する流し撮りなどの場合でも、高い剛性でカメラを支持できます。
ブレーキをかけた場合には、従来と同様に剛性の高い下ボール受け〜ブレーキ機構でボールを支持しますから、
ブレーキをかけないとき,かけたときのいずれも高い剛性でカメラを支持します。

カメラ等の荷重の通り道には、
ボール〜底部の基台までプラスチック類などの柔い部分がないので、
どちらの場合でもカメラブレを効果的に抑制できるのです。

さらに、
基台底部に調整ネジを3箇所設けました。
これにより、本体と底部の基台との回転がより一層なめらかになりました。
独特の「ヌメー」っと回る感じをお楽しみいただけるかとおもいます。

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・各部のなめらかさ


そして、
ショックアブソーバーをよく機能させるために、
各部の寸法組立精度を飛躍的に向上させています。

一例として、
ボールを上で包む上ボール受けと本体との間の、
寸法精度と面粗度を大幅に向上させました。
これにより上ボール受けを回したときに、とてもなめらかな動きをします。
独特の「ヌメー」っと回る感じです。

また、
基台と本体と間の寸法精度と面粗度を大幅に向上させ、
更に、基台底部にステンレス鋼の調整ネジを3箇所設けました。
これにより、本体〜基台間は剛に接続されカメラブレを効果的に抑制します。
且つ、本体と基台と間の遊びは極小となり、基台の回転がより一層なめらかになりました。
例の「ヌメー」っと回る感じをお楽しみいただけるかとおもいます。

そのほか、
自由雲台の全摺動面を精密に手仕上げしてあります。
これにも、膨大な手間と時間がかかるのです。
ぜひ、この成果をお楽しみ頂きたいとおもいます。

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・まとめ


さらに、発明〜実用化までの数々の実験によって得た、
優れた手段や方法はすべて新型自由雲台Type−Sシリーズにぶちこみました。
新型自由雲台Type−Sシリーズは、
見た目は自由雲台上部の皿状の部品が白色(アルミ素材色)になっただけですが、
内部はまるっきり別物なくらいの進化を遂げています。

そうして、加工,組立の各工程は、
異様なほど手間と時間と集中力がいることになりました。
作っている最中に、
「こんなに手がかかるのか。カメラつくってるみたいだ」と、
ひとりごとがでてしまいました。
「こんなことするヤツ、いないだろうな」とも。


新型自由雲台Type−Sシリーズで、
機械の楽しみのようなものが味わえ、
梅本製作所の自由雲台を使うことが、より楽しくなることと存じます。

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